「江戸切子」キラキラ輝く芸術とは?

「江戸切子」に興味が湧いてきました!
日本の伝統工芸品には、魅力がたっぷりです。

職人さんの拘ったカットグラスの技は、いつの時代も人々の心を魅了します。
光に当たったときの「ガラスの輝き」って、本当に綺麗ですよねぇ。

今回は、「江戸切子(えどきりこ)」について解説します。

 

江戸切子とは?

江戸切子とは、「ガラスの表面に紋様をカットを施して装飾する技法」のこと。
またはカットされた紋様そのものを指します。

「カットグラス」とも言います。

主に回転する研磨盤を用い、ガラスをそこに押し付けるようにしてカットを入れます。
職人の長年の経験と技術が描き出す「ガラスの芸術」です。

切子(切り子)と付く商品名のものは他にもありますが、「江戸切子」を名乗れるのは江戸切子協同組合より認定されているものだけです。
そのため、必然的に江戸切子とは日本製の手作りのガラス製品ということになります。

 

江戸切子の歴史とは?

江戸切子はいつ・どのように始まったのでしょうか?

江戸切子は、江戸時代後期の約1834年(天保5年)に江戸大伝馬町でびいどろ屋を営んでいた「加賀屋久兵衛」が金剛砂を用い、英国製のカットグラスを真似てガラスの表面に彫刻することを工夫したのが始まりと言われています。

幕末に黒船で来航したペリー提督が、加賀屋から献上されたガラス瓶の見事な切子に驚嘆したという逸話が伝えられています。

明治時代には、英国人による技術指導によって、西洋式のカットや彫刻技法が導入されました。
現代に至る精巧なカットの技法の多くはこの時に始まったとされています。
江戸時代には透明なガラスに切子が施されていましたが、現在では「色被せ(いろきせ)」ガラスを使った製品が主流となっています。

昔は「瑠璃(るり)」「玻璃(はり)」と呼ばれていましたが、江戸時代から「ぎやまん」「びいどろ」と呼ばれるようになります。
その後「ガラス」という呼び方が一般的になりました。

江戸いろはかるたの中に、「瑠璃も玻璃も照らせば光る」ということわざがあります。
「本当に優れたものは、他の多くに混じっていても美しく輝く」という意味ですが、ガラスがいかに人々の心を魅了していたかがうかがえます!

ガラスが多く作られるのに伴い、江戸切子も庶民の間に広まり、大変な人気になったとのことです。

 

江戸切子の魅力とは?

庶民の日用品として愛用された江戸切子は、伝統を脈々と受け継いでいます。

特に光の反射が魚卵の連なりに似ていることに由来する魚子(ななこ)をはじめとする、二十種ほどある伝統文様は江戸切子の表面に施される大きな魅力の一つです。

その文様のひとつひとつには、意味があります。

伝統文様の意味も分かると「江戸切子」の魅力もさらに高まります!

矢来紋

太い線と細い線が組み合わさった格子柄模様が「矢来紋」 
竹や丸太で造った囲いの形を表すこちらの紋様は、防護柵を意味する柄であるため、魔除けの効果があるとされています。

笹の葉紋

「笹の葉紋」は、その名の通り笹の葉を模した豪華なカットが特徴の紋様。
笹の葉は、真冬でも青々とした葉を茂らせる生命力あふれる植物であるため、縁起物として親しまれています。

菊つなぎ紋

細かく交差した線で菊の花の連なる様子を表現した「菊つなぎ紋」 
不老長寿を表す花である菊が連なっている大変縁起の良い柄です。
また、菊つなぎは「喜久繋」とも書き、喜びを久しくつなぐという意味もあります。

魚子(ななこ)紋

魚の卵を模した細かい切り込みが連続した「魚子紋」
カット面の細かな光の反射がうろこのように美しく輝きます。
こちらの模様には、子孫繁栄という意味があります。

八角籠目紋

竹籠の八角形の編み目のような模様なのがこちらの「八角籠目紋」
全方位に手を広げる形である八角形は、宇宙を意味しており、八角形のひとつひとつは銀河を表しています。
この紋様の器にお酒を注ぐ行為は充足を、そのお酒を飲み干すことは挑戦を意味すると言われています。

 


厚さ2〜3ミリほどの色被せガラスを削る薩摩切子のぼかしの技に対し、江戸切子は厚さ1ミリ弱の色被せガラスに繊細な彫りを施し、その特徴であるシャープで鮮明な輝きを生み出します!

上から覗き込むと万華鏡のように光が反射する切子は、魅力的です。
透明ガラスに文様を施した江戸切子のシンプルな美しさも再評価されています。

日本酒・ビール・ワイン用など様々な形状が作られ、日用品としての使い勝手の良さ、長く使っても飽きのこないデザインが人気です。


江戸切子と薩摩切子の違いとは?

「江戸切子」「薩摩切子」の違いは何でしょうか?

江戸切子との違いは、江戸切子が透明・無色な硝子(透きガラス)に細工を施したものなのに対し、薩摩切子はより細かい細工(籠目紋内に魚子紋等)や色被せと呼ばれる表面に着色ガラス層をつけた生地を用いたものが多いのが特徴です。


江戸切子=伝統工芸品 :薩摩切子=伝統工芸品ではない
江戸切子=無色か薄い色被せガラス :薩摩切子=厚い色被せガラス
江戸切子=力強い彫 :薩摩ガラス=繊細でグラデーションも特徴

 

江戸切子は日用品として古くから作られていた反面、薩摩切子は美術品としての扱いが多かったためよく見ているとデザインの方向性の違いも分かります。

薩摩切子とは?

薩摩切子とは、幕末の時代から薩摩藩(現在の鹿児島県)でつくられた工芸品です。
江戸のガラス職人を招くなどして、薩摩藩が事業として作ったのが始まりです。

薩摩切子が作られるきっかけは、日本を近代化させるためとも言われています。軍備の増強のため、多大な資金を集めるために作られたもので、海外への交易品としても使われていました。

薩摩切子は大名などへの贈り物として使われました。しかし、その後の薩英戦争をはじめ、明治に入ってからは西南戦争が起こるなどしたため、その後は薩摩藩の衰退とともに歴史が途切れました。

現在でも薩摩切子はつくられていますが、それは復刻生産というかたちで作られています。明治初頭までつくられた薩摩切子は現存するものではとても貴重で、高価で取引されています。

 

江戸切子と薩摩切子の特徴と違いとは?

2つの切子が生まれたきっかけは、「江戸切子は庶民の手によってつくられた工芸品」に対して、「薩摩切子は、薩摩藩の事業として作られたデザインを重視した美術工芸品」です。

よくわかる違いとしてガラスを見ればわかります。
江戸切子は、透明なガラスの物や色被せガラスを薄く被せたものがあります。
薩摩切子は、色被せガラスを厚く被せているのが特長です。

江戸切子は食器としても使えるように作られたのに対し、薩摩切子はデザインを重視した美術工芸品として作られています。

薩摩切子のカットの仕方は、「ボカシ」という技法によるもので、寝かせながら緩やかにカットしていきます。カットが細かく、光によって幻想的な風合いになるデザインが特長です。

 

 

伝統工芸品・江戸切子が、今再ブームになってきています。 

繊細な紋様が施されたうっとりするほど美しいガラス作品です。
日常使いもできる実用的な工芸品だからこそ、使ってみてください!

日本の伝統文様の意味を理解していくと、より使うときの楽しみも生まれてきます。
やっぱり、伝統工芸品って奥深いですね。

是非、江戸切子をもう一度見てみて下さい。

 

 

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